ノボル君と僕

ーーどうしたんだ!ノボル君、頑張れ!
 マサトは必死になって声援を送っていた。
 最初のグループで走ったアキラは、スタートからすんなり先頭に立ち、そのまま誰にもハナを譲ることなく、悠々と一着でゴールを駆け抜けた。
 それに対して次のグループで走っているノボルは、スタート直後からずっとしんがりに位置し、先頭まではかなり後れをとっていた。
ーーあれっ、ノボル君はアキラ君に負けないぐらい速く走れるはずなのに、どうしたんだろう……。ノボル君、今日はどこか体の調子でも悪いんじゃないのかなあ……。
 そんな、マサトの心を覆っていた不安の雲を少しずつ晴らしていくかのように、やがてノボルは風になった。
 二周目には二人抜き、三周目には三人抜いて、最後の四周目に差し掛かるあたりでは、前を行く二人に猛然と迫っていた。
 ノボルは更にペースを上げ、バックストレッチで一人抜き去った。
 前にいるのはあと一人だ。
 最後のコーナーを過ぎ、直線に向かうところで並びかけたノボルは、ゴール寸前で計ったように体ひとつ抜け出して先頭でゴールテープを切った。
 マサトは驚いていた。
ーーノボル君、あんなに後ろにいたのに……もう駄目だと思った。それなのに勝っちゃった。凄い!ノボル君凄い!
 港町小学校での運動会。一周200メートルのトラックを四周する、四年生の800メートル競争は、クラス対抗戦で行われた。一組から八組まで、各クラスからの代表選手二名による二回戦だ。その結果、マサトの四年八組は、最初に走ったアキラと次に走ったノボルの二人が、レース展開はまったく対照的だが、どちらも一着になり、八組の圧勝劇に終わった。
「ノボル君、やったね!カッコいい!でも僕ヒヤヒヤしちゃったよ……。負けちゃうんじゃないかと思って……」
「えっ、そうなの? 僕は自分のペースで計算した通りに走ったんだよ」
「だけど、最初の組で走ったアキラ君は、ずっと先頭で走っていたから安心して見ていられたけど、ノボル君は一周目までビリだったんだもの……」
「それは、アキラ君は強いから、ずっとトップで走る自信があるんだよ。でも僕はそんなに強くないから、どうしたら勝てるかなと考えたんだ。最初からとばしたらバテてしまうかもしれない。じっくり力を貯めて少しずつ……そして最後にその力を爆発させようと思ってね……」
「だけど、アキラ君と一緒に走ったら、いつも同じぐらい速いじゃない? アキラ君のように走ろうと思えば、ノボル君ならできたんじゃないの?」
「うん、そうかも知れないね……」
 ノボル君は僕の方を見て、ちょっぴり照れたように下を向いた。
「〝ペース配分〟っていうんだけど、ちょっと長い距離を走る時は、自分の力と相手の力を計りながら、そのー
……、駆け引きっていうか、そういうものが必要なんだ。僕はここでそれを試してみたかったんだよ。それは、アキラ君のように、何も考えないで力ずくで走っても、勝てたかもしれなかったけど……。でもやっぱり試してみてよかったよ。マサト君に、カッコいいって喜んでもらえたんだから!」
「うん、本当に、何か凄くカッコ良かった!」
「そうでしょう?」
「うん、最初はビリでも、最後はトップなんて、すごくドラマチックで……」
「初めも大事かもしれないけど……、でも一番カンジンな事は、最後がどう終わるかって事でしょう?」
 そう言って、ノボル君はにっこりと微笑んだ。

 

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